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学芸大学にある流浪堂に足を踏み入れると、まず目に入るのは、立体的にディスプレイされたアート系の書籍の美しいグラフィックであり、壁を彩る東欧の古いポスターである。古本屋らしくないポップさが、訪れる人を明るく迎え入れてくれる。

本棚に目をやると、まるで落ち着きのない小学生みたいに、本たちは前に出て声高に個性を主張したり、列からはみだしたり、好き勝手な方向を向いていたりする。本と本の間には、古いタイプライターや鳥かご、民族楽器などの「異物」が混入していたりもする。全然きちんとしていないのに不思議に醸成されている統一感。雑多な切り抜きの寄せ集めが一枚の絵をかたちづくるコラージュ作品のような店である。

「フラットな棚は好きじゃなくて、わざとでたらめに積んだように見せたり、デコボコさせたりと、立体的な空間作りにはすごくこだわっています」と語るのは、流浪堂店主の二見彰さん。

二見さんは綱島にあった古本屋「しょうなんどうブックサーカス」を手伝ったのがきっかけで、「棚作り」という空間プロデュースの面白さに目覚め、2000年に流浪堂を学芸大学にオープン。それまではバンドをやっていたり、時間ができるとふらっと旅に出たりする自由な生活を楽しんでいたという。「棚作りって音楽に近いと思うんです。集まった音やリズムをつかってひとつの世界観を作るという点において」と二見さんは言う。

最初に店を訪れたときに、あまりにもステキな空間で、本もカルチャーやアート関連が多く、まるでセレクトショップみたいに感じました、と伝えると、二見さんは苦笑してこう「反論」した。

「実はセレクトショップというのが大嫌いなんです（笑）。本って本来お客様に選んでいただくものなのに、自分がセレクトしましたってことで本に付加価値をつけるようなやり方も、少量の本の中から選ばせる様なうすいやり方も好きじゃなくて。本当は本の作り手とお客様が主役じゃなきゃいけないのに、その間を媒介する自分たちが主役になるのはおかしい。あと、セレクトショップが持つ”きれいなものばっかり見せる”といったイメージも好きじゃないですね」

二見さんが特に思い入れがあるという、入り口近くの「旅」関連の棚。その上には民族楽器や地球儀がディスプレイされている。

特に選んでおらず、むしろ雑多な品揃えを心がけているという二見さんだが、何のコンセプトもなく選んでいるとはにわかに信じがたく、本当に「セレクト」していないのかと聞いてみると、

「うーん、強いて挙げると、もともと旅と音楽が好きだったので、それにリンクするものを置いているというのはあるかもしれない。わかりにくいかもしれないけど、”ロックな部分”のある本が好きなんです。あと、うちの商品は、市場で仕入れたものよりも、お客様が持ってきてくれたもののほうが多いんですが、なんとなく、流浪堂に合いそうなものをセレクトして持ってきてくださっている気がします。学芸大学に住んでいるデザインやアート、家具などものづくりをしている常連さんが本を持ってきてくださることもありますね」

なるほど、この独特のセレクトと雰囲気は、店主と客の合作と呼べるものなのかもしれない。

個人的には、上の写真の、日本の電車や流行語、近代史を扱うシブい本棚も気に入ったのだが、「これは日本の風俗棚というべきもので、ボクも結構好きですね。実は時々着物を着たりするんですよ、これもロックなんです（笑）」と二見さん。

うーん、ロックって難しい（笑）。

左が店主の二見さん、右は綱島の古本屋時代からの仲間の木村さん。木村さんはDIYが得意で、ユニークなディスプレイを実現している強力な空間プロデューサーでもある。

＜店舗データ＞

古本遊戯　流浪堂　TEL：03-3792-3082

東京都目黒区鷹番3-6-9鷹番サニーハイツ103　[地図]

営業時間：
平日12:00～24:00
日祝日11:00～23:00
定休日：定休日なし

今年は流浪堂がオープンして10周年。二見さんは「何かやりたいんですけどねぇ」とつぶやいてました。ちょっと期待です。

＜コネタ＞
ちなみに流浪堂の対面にある老舗洋菓子店「マッターホーン」はバウムクーヘンで有名なのでおやつにおすすめ。鈴木信太郎画伯の包装紙も乙女度が高いと評判です。

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