乙女チップス
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大人可愛いモニーク・リヨネさんの刺繍の世界

この春、かわいいものハンティングを兼ねてパリへ旅行に行ってきた私。

雑貨店、ドラッグストア、スーパーマーケットに大手百貨店、有名セレクトショップなどさまざまな店舗をウォッチングしてきたが、最も心惹かれたジャンルが手芸店だった。並んでいるアイテムそのものの可愛さもあるけれど、店舗の佇まいや商品ディスプレイなどの総合力で、日本ではなかなかお目にかかれないレベルのお店が散見され、さすがファッションの都、とひたすら感銘したのだった。

そんなパリの素敵な手芸店(メルスリー)の中でも、かわいいけれど子どもっぽくなく、スタイリッシュでありながら暖かい、一般的な言い方をすれば「大人可愛い」という形容がもっともしっくりくる手芸店が、「ラ・クロワ・エ・ラ・マニエール」(La Croix et La Maniere)だ。

このお店のオーナーであり刺繍デザイナーであるモニーク・リヨネさんは、これまで4冊の本を出版し、日本でも著作が発売されている人気作家。本を制作中はお店を人にまかせてバスク地方の別荘に一ヶ月ぐらいこもってしまうというモニークさんが、この日はちょうどお店にいたので、お店のことや刺繍のことなど、いろいろと話を聞いてみた。


アトリエ兼ショップで取材に応じてくれたモニークさん。

ーーなぜ刺繍の世界へ?

雑誌のスタイリストをしていた1970年代後半、趣味で刺繍を始めたのですが、その頃はちょうど古き良き時代の刺繍が市場から消滅したかのごとく、全く見当たらなくなってしまっていました。そんな時、デンマーク刺繍の素晴らしさを見出し、翻訳してフランスに紹介したんです。それからですね、刺繍関係の仕事が来るようになったのは。その後はご存知の通りクロスステッチが再ブームになり、今もとても人気です。


お店の人気商品の一つ、パステルのオリジナル生地。淡い色合いとナチュラルな肌触りがたまらない。

ーーこのお店は並んでいる商品も素敵ですが、ディスプレイが独特ですね。ナチュラルで、お店っぽくないというか。

実は80年代にも友人と一度刺繍のお店を開いたんだけど、それは今のお店とは全然違うテイストのお店だったんです。その頃は刺繍の分野では競争相手がいなかったけど、「ラ・クロワ・エ・ラ・マニエール」をオープンした2000年頃は、競合も増えていたので、全然違うコンセプトにしようと思いました。
一般的な刺繍のお店って、作品を額縁に入れて飾ってあったり、リボンはリボン置き場、ボタンはボタン、というふうにかっちり分類しすぎていますね。すごくお店っぽくて、私はいいとは思えないんです。そこで自分のお店では、まるで家の中に飾ってあるような、空間全部が一体化している自然なディスプレイを目指しました。


この水玉の布もモニークさんが開発したオリジナル商品。完成作品は売っておらず、布だけや半完成品を購入して自分で刺繍するスタイル。並んでいる刺繍はご参考。


ーーデザインをする上でどんなものに影響を受けていますか?

私のデザインの特徴は幾何学的で、それが好きなんだと思いますね。ヴィンテージの刺繍にももちろんインスピレーションを受けていますが、単にクラシックなものをそのままもってきてもおばあちゃんの家みたいになってしまいますから、今30歳ぐらいのカップルのモダンなインテリアに合うように、自分で料理しなおすことを必ずしています。

ーーこの場所を選んだ理由は?

ここは昔パティスリーだったんです。この場所を選んだのは、この通りに友達のブティックがあったからというのもあるけど、まわりはアーティザン(職人)のお店ばかりでしょう。小さくてスペシャリティがあって、職人気質が残っているエリアなので、とても仕事がしやすいんですよ。


お店のドアが糸巻き! という細かいこだわり。

作品そのままの、自然体で暖かい人柄のモニークさん。並んでいる刺繍を施した完成品は参考作品で、キットや生地を買って作り方を教わるスタイルをとっているというが、フランス語が堪能だったらもうぜったい彼女の指導を受けたい! と思ってしまう魅力の持ち主だった。
フランス語が出来なくても、インテリアの参考になる素敵なディスプレイは一見の価値あり。お店はパリ中心部からはちょっと離れているけれど(とはいえ、バスティーユからぶらぶらと散歩がてら歩いていってもいい距離)、周囲には昔ながらの鍵屋さんなどもあるので、古き良きパリの手仕事を探しにぜひ足を運んでみたいエリアだ。

La Croix et La Maniere


売れ筋の水玉のオリジナル生地は少量カットで買いやすく販売中。もちろん買いましたが、刺繍を覚えねば……。

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