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愛しの朝香宮邸!ラジエーターカバー篇

日本で一番好きな洋館は? と聞かれたら、まっさきにこの旧朝香宮邸、現、東京都庭園美術館を挙げたい。

この美しい洋館は、フランス帰りの朝香宮鳩彦王が昭和8年に建てたもので、「幻の建築」「アール・デコの美術品」と称される東京都の有形文化財。外観は直線的でシンプルなデザインだが、インテリアはルネ・ラリックによる豪華なシャンデリアや、アンリ・ラパンがデザインした壁紙や家具、フランス海軍からの贈り物というセーブル社の香水塔など、エレガントな趣向が凝らされている。今でもじゅうぶん新しくてかっこいい、スタイリッシュな邸宅だ。

玄関を入るとまず目に入る香水塔。上部の渦巻き型のものが照明で、そこに香水を入れると、熱で気化した香水が室内に漂うという、庶民にとっては全く真似しようのないインテリア。

東京都庭園美術館は普段は数々の展覧会を実施しており、その際はもちろんこの瀟洒な洋館内の撮影はNG。個人的には展示よりも洋館そのものが見たくて足を運んでいるケースが多いのだが、まれに建物そのものを公開して撮影もOKのイベントを行っている。

撮っても撮っても、全然満足できないほどに、フォトジェニックなこの洋館を公開してくれるなんて! ほんとうにうれしいサービス。原美術館とかでもぜひやってほしいです。私は2008年1月に行われた建物公開日に一眼レフこわきに走っていって、もうねちねちとあちらこちらを激写。どれだけ好きなんじゃ! と自分で笑ってしまうほど撮影してしまい、とてもじゃないけれど一度では紹介しきれないので、今回はラジエーターカバー篇。照明篇、建具篇などは後日。

実用一点張りの現代から見ると、なんでこんなに凝っているのかわからない華麗なカバー。
洋風だったり、和風だったり、デザインのバリエーションも豊富で、一部屋、一部屋違うものが据えられている。

上のラジエーターカバーのデザインは、北村耕造率いる宮内省内匠寮が手がけたそう。当時の宮内省内匠寮は非常に優秀な技術者が多く、このラジエーターカバーも、彼らのアール・デコ研究の熱心さをうかがわせるクォリティ。

もう、眺めているだけで楽しいバリエーション! 

下の花をモチーフにしたラジエーターカバーは、妃殿下寝室のもの。新しいものや芸術を愛し、渡欧中に彫刻家のレオン・ブランショに絵画の手ほどきを受けたという允子妃殿下自らデザインをしたという。

東京都文化振興会がまとめた『朝香宮邸のアール・デコ』という本(昭和61年発行)に掲載されている、大給湛子さん(朝香宮邸で育った朝香宮鳩彦王の第二王女)へのインタビューによると、朝香宮邸をプロデュースしたのは朝香宮鳩彦王ではなく、むしろその妻の允子妃殿下であったようだ。新しいものに敏感で、日常も洋装で過ごし、夫とゴルフへ繰り出す、「しとやかという感じの人ではなかった」(大給湛子さん)というアール・デコの時代の女性そのものの妃殿下がいたからこそ、ここまで大胆なデザインの館が誕生し得たのだろう。

「他家の宮様方が自動車にお乗りになるときは、殿下が先にお乗りになって、妃殿下はおあとに乗るのが普通でしたがうちは反対でした(笑)」(大給湛子さん)というモダン・ガールと、このスタイリッシュな洋館はよく似合う。

さて、そんな、アール・デコの館のキュートな脇役ともいえるラジエーター・カバーだが、東京都庭園美術館併設のミュージアムショップでは、シールやしおりになって主役級の大活躍をしていた。

もちろん、買ってしまった私です。何に使おうかなぁ…。

東京都庭園美術館

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