乙女チップス
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住宅展示場としての江戸東京たてもの園

住宅展示場やモデルルームを見に行くと、たいがい、白い壁紙、北欧家具、ガラスのテーブル、フローリングの床といった、最大公約数的なインテリアの空間へと導かれる。すっきりシャープでそつがなくコンビニエンス。高機能で殺菌消毒済。でも、どこか大量生産的な匂いを感じてしまって、一生でいちばん大きなお買い物にしてはそそられないよなぁ、と感じてしまう。

個人的には、もっともマイホームへの夢が膨らむ住宅展示場は、東京都小金井市にある「江戸東京たてもの園」だと思っている。

江戸東京たてもの園は、文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示している野外博物館。
銭湯、和傘屋、荒物屋などの商業施設や、高橋是清邸のような政界大物の邸宅、三井財閥の豪邸など、自分の住宅の参考にはならないものも多いけれど、西ゾーンには、どこかの住宅街の品のいい一角をそのままスライドさせてきたような、「いつかは私も!」と思える住宅が展示されているエリアがある。

たとえば、この堀口捨己の最初の住宅作品である小出邸。堀口は『Casa BRUTUS』2009年4月号で日本のモダニズム建築の7人の巨匠に挙げられていた昭和を代表する建築家のひとり。小出邸はキムタク主演の『華麗なる一族』にも西村雅彦扮する銭高常務の家として登場していたが、いかにも昭和の中流家庭という設定に似合いそうな、品の良い邸宅である。

玄関まわりの丸い窓のあしらいも可愛い。1925年(大正14年)に建てられたとは思えないモダンなデザイン。

こちらは応接間。赤い椅子がこんなにシックで大人っぽい空間を作るなんて、自分が家を買ったら真似したい!

水平、垂直の部材による和を感じさせる壁面のデザインと、洋風の窓の組み合わせもおしゃれ。実際に人が住んでいた空気が漂うCozyなくつろげる空間。新築物件にはこの表情は出せません。

つづいてこちらは1942年に建てられた前川國男邸。前川も堀口と同じく『Casa BRUTUS』認定の(?)モダニズム建築の7人の巨匠のひとりで、ル・コルビジェの弟子でもある。前出の小出邸に比べると、吹き抜けの居間があったりロフトがあったりとエッジが効いていて、真似するには若干ハードルが高め。

今で言うデザイナーズ建築といえる邸宅だけど、古いせいかかつてのエッジは丸くなっていて、気後れすることも緊張することもなく、とても居心地がいい。

ハードルが高いとはいえ、たとえばこの障子とテーブルと椅子の組み合わせとか絶妙な和と洋のミックスの技は真似できそう。この椅子とテーブル、もしまだ売っているならぜひ買いたいかわいさです。

さて、江戸東京たてもの園の住宅展示場、最後はこの「田園調布の家」でしめましょう。堀口や前川のような超がつくスター建築家の作品ではないけれど(設計は三井道男)、女の子なら一度は夢見たような砂糖菓子みたいな繊細で甘めの外観。陸奥A子の漫画の主人公が飛び出してきそうな乙女チックな家の竣工はなんと1925年(大正14年)! 大正時代にこんなショートケーキみたいなおうちに住んでいたのは一体どこのお洒落さんですか。

すっきりとモダンな小出邸、前川邸を見た後は、なんとなく甘すぎるかな~と思ったが、実はこの家、中に入ってみたら、正直一番住み心地がよさそうだった。

たとえばこの窓際に配置されたぽかぽかと暖かそうなソファエリア。こんな明るい窓辺で猫と一緒にごろごろくつろぐ自分を想像すると胸が高鳴る。お茶などを置くサイドテーブルの役割を負う場所もきちんと備え付けてあって気が利いている。4-5人でわいわいおしゃべりをする、楽しい一家の姿が目に浮かぶよう。

書斎も大きな窓つき。とにかく全体的に明るい。

居間を中心に食堂、寝室、書斎が配置されている「居間中心型」という間取りだそうで、本当に仲が良い家族のために考え抜かれたような家。この家は平成5年まで現役で人が住んでいたそうで、その住宅としての長命には、きっとこの幸せ志向の間取りが貢献したに違いない。ひとつひとつの部屋の作りが小さいのも親しみやすい。モダン建築もすてきだけど、この明るい窓辺のソファに座ったときほどのくつろぎが得られるかなぁ、と思うと、実際に建てるならこのタイプかな、などと思った。

こうした表情豊かな古い建築を集めた住宅展示場があって、本当に気に入ったおうちがあったら移築できるようなシステムがあったらいいのに!

江戸東京たてもの園




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