乙女チップス
カワイイもの、古いものを集めた乙女派ウェブマガジン
『ひまわり』等で活躍、鈴木悦郎初の作品集!

子どもの頃、お気に入りの漫画家や童画家のものであれば、本やイラストだけでなく、シールや雑貨、手がけた広告の切り抜き、布や包装紙など、ありとあらゆるものを集めて宝箱に仕舞っておいた、なんていう思い出を持つ女性は多いのではないだろうか。

そんな宝箱が形を変えたような美しい本が登場した。「大人の乙女道」をテーマに執筆活動を行なっている野崎泉さんが編んだ『鈴木悦郎 詩と音楽の童画家』である。

鈴木悦郎は、中原淳一による少女雑誌『ひまわり』などで主要スタッフとして活躍し、今もファンサイトがあるほど根強い人気があるにもかかわらず、その全体像を把握できる作品集などがこれまで存在しなかった’伝説の’童画家。今回の書籍化にあたって帯文を寄せている宇野亜喜良も、かつて鈴木悦郎のファンだったのだとか。88歳の今も、真鶴を拠点に定期的に個展を開き、創作活動を続けている。

今回、作品集に収められているのは、挿絵やイラスト、絵画などの平面作品だけでなく、文房具、おもちゃ、包装紙、陶器など、ありとあらゆる分野の作品。ここまで立体的に情報を網羅できたのは、ご家族、ファンの方、コレクター、そして過去にお仕事をされた会社の協力があったからなのだとか。野崎さんは本の中で、鈴木さんの作品を「それは”昭和レトロ”という括りにはおさまらない、むしろ今を生きる人たちに受け入られるセンス」と形容しているが、本をめくってその作品たちを眺めると、可愛らしさと大人っぽさが共存する作風はとても現代的で、今でも売っているならぜひ手に入れたい逸品がいっぱい。

鈴木作品に関しては私の薄い知識を並べ立てるよりも、その作品を実際に見ていただいたほうがずっと魅力が伝わりやすいと無理を言って、今回は、河出書房新社及び野崎さんから許諾をいただき、本の中から鈴木作品の写真をサイトに一部引用させていただくことにした。

この写真は、昭和34年に発売され、当時「世界で初めてのレコードつき便せん」と広告で謳われた「ミュージック・レター」(ソノシート付き便せん)。胸もとにちょこんと添えられた小さな赤いハート、微笑を浮かべた口元とどこか寂しそうな青い瞳、白くふわふわとした羽が可憐な白鳥が描かれているが、使っている色が落ち着いているのと、金の箔押しが高級感を添えていて、可愛らしくなりすぎないおしゃれな文房具に仕上がっている。こんな便せんがあったら、私も誰かに手紙を送りたい!

こちらは、レターセットやお手紙をしまっておくための文箱。大きく華やかな帽子と、色彩を抑えたあどけない少女の顔の組み合わせがすてき。今も落ち着いたブックカフェの窓際あたりに置いたらはまりそうな重厚感。

そして、こちらは岐阜県の多治見市にあった「エンゼル陶器」からシリーズで発売されたETSURO陶器のうちのひとつ。性別を選ばずに喜ばれそうなデザイン。今も売っていたら欲しい!

「かわいい!」「欲しい!」……などと心の中で小さく叫びながら本をめくっていると、まるで子どもの頃に友だちのおうちに遊びに行って、とっておきのコレクションボックスを見せてもらっていた時のようなわくわくした気持ちになっている自分に気づく。冒頭でもつぶやいたけれど、本と言うより宝箱といった表現が似合う一冊なのだ。

ビジュアルとして美しいだけでなく、巻末にたっぷりと掲載されている鈴木悦郎へのインタビューでは、恩師・中原淳一や後輩の内藤ルネについても語られていて、日本の少女文化の担い手たちの貴重な証言にもなっている。

手のひらの上で、いつでも広げることの出来る昭和の乙女たちの夢の世界。いつまでも手元において時々眺めかえしたい作品集である。

<参考サイト>

鈴木悦郎 詩と音楽の童画家(bibliomania)
野崎さんによる特設サイト。かわいいシールや包装紙などの写真や、まるで詩のような宇野亜喜良による鈴木さんへの文章も掲載されている。

Comments are closed.